桜庭 今日は……ひゃ、ひゃべれない……。
──えっ、なんですか?(笑)。
桜庭 あ〜。親しらずが残ってて……。
──抜いたんですか?
桜庭 まだ抜いてないんだけど、抜くために今日歯茎を切ってきて……ほら(と、口を開ける)。
──うわ、ザクザクですねぇ。というわけで、今日はちょうど助っ人の方にお越しいただいてますので、半分喋っていただきましょう。長年、桜庭さんの番記者その他でご活躍中のライター、藤本かずまささんです!
藤本かずまさ(以下、藤本) どうも。よろしくお願いします。
──今日は当コーナーの特別編として、『番記者から見た桜庭和志』というこ とでお話をうかがいたいんですけど。藤本さんは初めて桜庭さんとお会いしたのっていつぐらいなんですか?
藤本 たぶん、Uインターの時で場所はサイパンじゃないですかね?
──あの新日本との対抗戦前のサイパン合宿ですか?
藤本 そうそう。95年の9月ぐらいだっけ? それ以前にも会場とかではお会いしてたんでしょうけど、ちゃんと話すようになったのはそこからのような気がします。
桜庭 そうでしたっけ? 全然覚えてない……。
藤本 桜庭さん、なんで覚えてないんですか(笑)。あのサイパンは楽しかったから、メチャクチャ覚えてますよ。
桜庭 ほとんど飲んでたから……。
藤本 飲んでパトカーにホテルまで送ってもらいましたよね。
桜庭 えぇっ!? パトカーにぃ?
藤本 これも覚えてないんですか?
桜庭 まったく覚えてない(笑)。
藤本 ほら、向こうでスフィンクスの形をしたディスコに行ったじゃないですか。で、ぼくらが泊まってたホテルがあのへんのエリアとけっこう離れてたんですよ。で、みんなで飲んで店の外に出て、「さあ、どうやって帰ろうか?」って話してるときに、ちょうど目の前にパトカーが停まってたんですね。で、金原(弘光)さんだったかなあ? あの時のメンバーの中では金原さんが一番英語できたんで、金原さんが警官と交渉してパトカーでホテルまで送ってもらったんですよ。
桜庭 タダでですか?
藤本 たしかタダで。サイパンやるなあと思って(笑)。
──それで、本格的に意気投合したのっていつぐらいですか?
桜庭 キングダムの時……だっけ?
藤本 ああ、そうですね。キングダムのときにぼくが初めて『週プロ』で単独インタビューしたんですよね。大分でワンナイトトーナメントやった頃ですよ。
──ありましたね。
藤本 そのトーナメントで、桜庭さんが優勝したんですよ。その直後に初インタビューをやって。で、その年にあのUFC優勝ですよ。で、その時にもう1回インタビューしたんです。全然覚えてない……?
桜庭 ……なんとなくしか(笑)。
──ホント覚えてないもんなんですね。ズバリ、藤本さんから見て桜庭さんってどんな人ですか?
藤本 いや、それが100%把握できないから面白いんですよね。
──藤本さんでも把握できないですか。
藤本 でも、なんとなく考えかたはわかるんですよ。「たぶん、これはこういうふうに考えるんだろうな」っていうのは、なんとなく。
──じゃあ、わかる範囲でこういう人なんじゃないかなっていうのは?
藤本 難しいですね……。人間のことって自分でも100%はわかんないですよね。
──桜庭さん、「俺、こいつには全部バレてるな」って人、います?
桜庭 いないですね。
──あんまり自分のことをわかってほしい系でもないんですよね。
藤本 世の人に対して「ボクを理解してくださいよ」っていうのはあんまりないですよね?
桜庭 ないですねぇ。
──ボクから見た桜庭さんって、けっこういろんなことに怒ってるなって印象があるんですけど(笑)。怒ってるっていうか、世の中のいろんなことに、いちいち憤ってるなっていう。
桜庭 あ、それはありますね。こないだも運転免許証の書き換えに行って適性検査を受けたら、メガネと一緒で「今後はコレ(左腕のギプス)がないと運転できないよ」って言われて。
──へ? どういうことですか?
桜庭 ちょうど今ギプスをしてるじゃないですか。これで免許の書き換えに行ったら、免許証の運転条件に「装具」って入れられて。これからはこのギプスをしてないと運転できないんだって。だからこのギブスが取れたらまた書き換えに行かなきゃいけないんですよ。
──「装具」って書いてあるんですか? そんなの初めて聞きましたよ。
桜庭 ほら、これ(と、免許証を取り出す)。
藤本 ギプスを取った状態で運転をしちゃダメなんですか?
桜庭 そうです。こういう融通がきかないことっていうか、細かいことにはちょっと怒ります。
──ホントだ、書いてますね。こりゃ誰だって怒りますよ。
藤本 怒るっていうか、面倒くさいの嫌いですよね?
桜庭 そうですね。
藤本 桜庭さんのものごとの判断基準って、「面倒くさいか、面倒くさくないか」ですよね。アントニオ猪木さんは「面白いか、面白くないか」で判断するじゃないですか。あと、桜庭さんって見てておもしろいんですよね。
──たとえば、どんな時ですか?
藤本 試合に勝った時も負けた時も。これは最近よく感じるんだけど、やっぱりプロレスを経験してる人としてない人じゃ違うんですよね。それは凄く感じる。
桜庭 なにが違う?
藤本 たとえば、桜庭さんはお客さんのことって絶対頭にあるじゃないですか? だから「こんな試合してたらつまんないだろうな」とかっていうのを、ちゃんと考えられる人というか。考えられない人いるじゃないですか。今の若い格闘家の子たちって、最初から総合格闘技っていう環境があったでしょ? そういう環境だけで育った人たちと、プロレスを通過したり、子供の頃にプロレスを観たりして育った人たちっていうのは、やっぱりなんか違うなって感じるね。
──それと、飲み会の席での桜庭さんっていかがですか?
藤本 最近、一緒に飲んでないですよね。
──桜庭さんは飲むとどういうノリになるんですか?
藤本 明るい系ですよ。オヤジギャグ連発とか(笑)。
──ダジャレとか言うんですか?
藤本 「布団がフットンだ」系の(笑)。あと、後輩たちに無理に飲ませたりっていうのがない。
──あ、ないんですか?
桜庭 そんなにしないですね。あまりにもチビチビ、「この人飲んでないなあ」って人には「かんぱ〜い!」とか言って注ぎますけど、適度に飲んでる人にはしないです。
藤本 その飲ませ方も、注いで「おい!」みたいな感じではなくて、自然な感じで。
桜庭 だいたい自分のグラスが空になると、周りが気になるじゃないですか。その程度ですよ。
──お二人はプライベートで飲みに行ったりはないんですか?
藤本 ないないない! お互い家も遠いし。
桜庭 そう、遠いから。北海道と沖縄だから。
藤本 で、毎回東京で待ち合わせしてね。早く帰らなきゃいけないし、飛行機の時間があるから。
──……スイマセン、全然面白くないんですけど(笑)。
桜庭 こういうくだらないことしか話さないんですよね(笑)。
──じゃあ桜庭さんから見た藤本さんってどんな人ですか?
桜庭 なに考えて減量とかしてんだろうな〜とか思いますね。(※藤本氏はマッスルライターと呼ばれるほどのマッチョバディの持ち主)
藤本 好きなんですよ(笑)。だから桜庭さんがスパーリングが好きなのと同じ感覚だと思いますよ。桜庭さんって、こういうカラダ作りとかにまったく興味ないから、そこは全然合わない。
──そもそも、藤本さんはなんでカラダ作りにハマッたんですか?
藤本 なんだろうなあ?
──気がついたら、いつの間にかムキムキになってたんですけど(笑)。
藤本 面白いんですよ、自分で自分の体をデザインするっていうのが。やっぱ、小さい頃にリッキー・スティムボートが好きだったり、藤波辰巳(現・辰爾)さんのカラダを見てすげえなっていうのがあったから、もともとこういうのに興味はあったんでしょうね。で、いま自分で『かっこいいカラダ』って雑誌を作ってるんだけど、それを作りながら自分でものめり込んじゃった、みたいな感じ。とにかく楽しいんですよ。
──そこがちょっと桜庭さんには理解できない。
桜庭 理解できない。
藤本 それはぼくらが「なんであんな痛い思いしてまで試合をするんだろう?」っていうのが理解できないのと近いものがあるんじゃないですか?
桜庭 試合は痛くないですよ。
藤本 いや、あとあと痛いじゃないですか、試合中は痛くなくても。
桜庭 あ〜。だから、受け身で考えると痛いんですけど、こっちは(攻撃を)やるイメージしか持ってないから。S的なイメージしかないから、全然痛くない。
藤本 ドSですもんね。
──逆に減量したりカラダを作ったりする行為は、ある意味ストイックで、どっちかっていうとMですよね。
藤本 ああ、追い込まれてる自分が好き(笑)。
桜庭 ボクは(相手を)追い込んでる自分が好き(笑)。
──アハハハハ!
藤本 だから長くお付き合いできてるのかも……(笑)。
──ドSとドMだったんですね(笑)。
桜庭 試合でガーン、ガーンって攻めて、相手がイヤな顔してるときなんか最高ですけどねぇ。もう、ウヒョ〜って感じ(笑)。
藤本 そういう感覚ってぼくはまったくないですから(笑)。だから取材してて面白いのかもしれないな。このほんわかしたルックスでこの性格だからバランスが取れてるのかも。表面と内側が全然違うもん(笑)。それと桜庭さんって、スターになろうとしてスターになった人じゃないから、昔から人と接する時の態度が変わらない。全然威張ったところがない。
──ボク、桜庭さんぐらい強かったらメッチャクチャ威張り散らしますよ (笑)。
藤本 で、桜庭さんは年下でも“さん”づけで呼びますからね。
桜庭 あ、これ話がつながってるかどうかわかんないですけど、お店でモノを買う時に「もうちょいまけて」とか言うのがボクは嫌なんですよ。モノを買うときは言い値ですよ。お店が設定した価格が、向こうにも儲けがある値段なのに、なんでこっちが金を払うのが嫌だからって安くさせなきゃいけないの? って。それじゃ商売になんないじゃないですか。
──持ちつ持たれつ、みたいな。
桜庭 そういうことですね。1万円のところ、「これ5000円でいいんじゃないの?」みたいな。それじゃ商売になんないでしょ。いくら客だからってお店に対しても気を遣わないといけないと思います。
桜庭 あ〜、本格的に口の中が痛い! だんだん痛み止めが切れてきました。痛てぇ……。
──スイマセン、じゃあ、そろそろ締めます! 最後に藤本さんがこれからの桜庭さんに期待してることはなんですか?
藤本 ホント、お体に気をつけて、ケガをしないように。それと正直、桜庭さんに望むことっていうか、試合を組むほうも、ケガしてるのに無理矢理メルヴィン・マヌーフ戦とかじゃなくて、もうちょっと観る側もやる側もテーマっていうか、思い入れが持てるカードを組んでいってほしいなと思います。だってあと10試合やるかっていったら、やらないでしょ?
桜庭 10試合だったら、3年あれば大丈夫ですよ。まず年に5試合やって、次に3試合、2試合……(笑)。
藤本 年間5試合は無理でしょ!
桜庭 まあ、5試合は無理ですけどねぇ。でも去年、一昨年と4試合ずつぐらいやってますよ? 去年とか一昨年はヒザが全然大丈夫でしたからね。
藤本 それはたまたま大丈夫だった年じゃないですか。
桜庭 まあ、そうですね。そしたらツケが回ってきた(笑)。
藤本 まあ、年3試合として、残りあと10試合としたらさ、あんまり意味のないカードじゃなくて、やっぱりほら、ぼくらもやる側も意味が見出せるカードを、いい時期にいいタイミングで組んでいってほしいなとは思います。やっぱり桜庭さんは日本の総合格闘技の最大の功労者ですから。この人がいなかったら、PRIDEもHERO'SもDREAMもなかったんだから。それと、この人は“桜庭イズム”を後世に伝えようって考えがまったくないんですよね。
──ああ、ないですね、そういえば。
桜庭 ボクはボク、人は人。伝えようと思っても伝わらないですから。
藤本 たぶん、桜庭スタイルって自分の中で作ってきたものでしょ。だからタモリさんが弟子取らないっていうのと一緒じゃない? あの人も誰かに教わった芸じゃないから。
──ここにきて、期せずしてタモさんっていう桜庭さんの好きなキーワードが出てきましたけど。
桜庭 ♪そらみみ〜ア〜ワ〜(と、歌い出す)。あれがいいですよね、『タモリ倶楽部』の「わかる人にしかわからない番組」っていう、あれがいいんだよなぁ。
──それでは桜庭さんから藤本さんにもなにかあれば。
桜庭 もう、60歳になっても70歳になってもシュッとしたカラダでいてください。あと、ボクの分も長生きしてください(笑)。
藤本 ライターとしてはなにも求められてない!(笑)。
桜庭 よく、おじいちゃんのボディビル大会とかあるじゃないですか。あれに出てほしいなぁ(笑)。
藤本 なんだかんだ言って、この人絶対ボクの原稿読んでないですよ(笑)。
桜庭 読んでますよ。たまに(笑)。
藤本 それはありがとうございま〜す(笑)。
──現在、『格闘技通信』のほうで、桜庭さんの連載コラム『やっぱり面倒臭い〜桜庭和志の本音コラム』を藤本さんが担当されてますが。
藤本 ええ。毎月かならず桜庭さんが載っている唯一の格闘技雑誌ですよね。これは他誌では無理なんじゃないかっていう。ホント、桜庭さんはめんどくさがり屋なのに、連載のコラムを引き受けていただいてありがたいなと思ってます。
桜庭 あ〜、いやマジで痛くてもう喋れません……。
──はい! 本日はお二方、どうもありがとうございました!■
|